まん丸の、黄色い月を見ていたら、中学生の頃、今はもう亡き父に食べさせてもらったステーキを思い出した。

 

当時家族で住んでいた名古屋市の中心にある栄という繁華街に学校が終わると連れて行かれ、

何を食べるとも聞かされないまま、父の後について高級そうなレストランに入った。

 

無口で厳しかった父と、間の持たない時間を持て余しているうちに、ジュウジュウと音を立てながら立派な鉄板が僕の前に運ばれてくると、

大きな丸いバターが分厚い肉の上に鎮座していて、なんとも言えない香ばしい匂いが鼻腔を突き抜けたのを覚えてる。

当時(1971年)で5千円位だったような記憶がある。

 

おそらく少し無理をして一人息子に食べさせようと思ったのだろう、父は他のものをつまみながら、

最後に僕の残した脂身を「食べないのか」と、向かいの席から腕を伸ばして箸でつまみ上げると、

そのまま口に運び、うまそうにビールで流し込んだ。

 

肉の脂身が苦手だった僕は、気持ち悪いと思って見ていたが、今やその快楽が痛いほど分かるような歳になってしまっている。

父が亡くなった歳よりも自分はもう6歳も歳をとっているのだ。

そしてこの年になって、初めて不器用に子を思う父の気持ちが分かるのである。

 

眩しいほどの中秋の名月を見上げながら、もう自分よりずいぶん年下になってしまったあの時の父の顔を、

少しさみしく思い出した夜。

 

2014/9/10