今年の夏は暑かった。いや、そんな生ぬるい言い方ではいけない。死ぬほど暑かった。
いやいや、死にそうだったと言ったほうがあの猛暑を的確に言い表しているだろうか。
いやいやいや、本当に死んでしまった人が何人もいるのだから冗談ではすまない異常な暑さだったのだ。
日本各地で最高温度の記録が次々と塗り替えられ、東京が台湾やベトナムより暑い日が続いた。
それなのにニュースや天気予報では、やれ原因はエルニーニョだの重なった高気圧だのと、のたまわって
けっして異常気象とか温暖化の結果とかは言わないのだ。
実際、今までなかったような豪雨や風、雷とまるで世紀末のような様相を呈していても、あえて世界的気候が悪しき
方向に向かっている事実から目をそらして解説しているのが非常に歯がゆい。
お天気おねえさんが「まあ、大変、このままだと地球に人が生きていけなくなっちゃいますね、便利さやお金儲けは程々に
して少し昔に戻りましょう」とか言ってくれればテレビの前の良い子たちも、そうだそうだ、僕たちが大人になった時に生
きていけない地球になってたら困る~!だから夜は早く寝ます~、コンビニで買い食いはしませ~ん、だからおこずかいは
いりませ~ん、原発もいりませ~ん、と未来に向けて良い教育になると思うんだけどな。
まあ、異常気象の話はこれくらいにして本題に入ろう。
今年も伊豆に行ってきた。僕は毎年何回か家族や友人と、韮山といういちご狩りで有名な場所から車で15分ほど山あいに
入ったログハウスに、うまいもんを食ったり焚火をしたりしに行くのがならわしだ。もともと夏は大好きで、東京でも休みの日など
は近くの公園へ欧米のおじさんみたいに偉そうに裸になってビールをやりながら日光浴をしたりもする。今まで一度も熱中
症らしき事態に陥ったことはなく、そういうものは老人と子供がかかるものだと思っていたのだが今年はちがった。
東京で35度近くに達した日、いつものように午前中に半分寝たまま起きあがり、ブランチまでの時間を外で日光浴でもしな
がら寝ていようと折り畳みベッドのうえで横になって30分ほど。いつもと違う感覚が襲った。いつものように体の表面がじ
じりと焼ける感覚ではなく、内側がやけに熱い気がするのだ。血液があったまってるといえばいいのだろうか、体がも
あーっとしているのに、いつも大量に出るはずの汗をまったくかいていない。これはやばいとすぐ気付き、慌ててログにも
どって頭から水道の水をかぶったが、すでに気分が悪くなっていた。乾燥した暑さには慣れているパキスタン育ちのワタクシは、熱中
症などかかるわけはないとすっかり油断していたのである。
こう見えても気は大きく小さな心臓のワタクシは冷静に気を動転させ、このような場合にや
るべきことを次々と忘れ、娘の持ってきてくれた氷水を一息飲んでようやく扇風機の前で横になったのである。
頭がぼーっとしてもごもごとなにを言ってんだかわからん立派な父親に、氷入りのタオルを持ってきてくれた娘は
リンパ線のあるところを冷やせだの、首の後ろがいいだの、しまいにはこのくそ暑いのに何考えてんの、などと励ま
しのことばをかけ、ワタクシは無事30分後に生還したのであります(うれし泣)
そしてこれ以来、すっかり暑さにおじけづいたワタクシは妙齢の貴婦人のごとく、秋口になっても昼間は木陰の間をしゃなりしゃ
なりと歩いているのであります。