待ちに待った桜の季節がまたまたやって来た。

桜が好きなのは言うまでもないが、それ以外に僕がうれしくなる理由がある。

平日の昼間に缶ビールを持って歩いていても誰もとがめるような目で見ないからである。

いや、とがめるどころか

「あら、あの人桜を楽しんでるんだわ、こんな時間から桜を愛でるなんて風流なひと」

となり、

「平日に休みをとれるなんてきっと有給休暇がたくさんあるエリートサラリーマンか、実業家か、いやひょっとしたらすてきだから芸能人かしら」

となって、

「あら、よく見ると糖質オフのビール。体にも気をくばっているのね、ますますすてき!」

となるのである。

ところが、桜がないとどうなるか。

「あらいやだ、あのひとこんな真昼間から酒なんか飲んで、アル中かしら。しかも糖質オフビールなんて、きっと糖尿病だわ」

となり、

「アル中で糖尿ならきっと仕事もくびになっているにちがいないわ、だってなんだかみすぼらしいもの。でもビールを買うお金はどうしてあるのかしら」

となって、

「そうだ、きっと盗んできたんだわ、目つきが怪しいもの。早く警察に突き出さないと、おまわりさ~ん!」

となるのである。

このように、桜があるのとないのとでは世間のワタクシに対する評価が天と地ほどもちがうのだ。

 

しかし、お花見シーズンもいいことばかりではない。

ことしも我が家のある中目黒の目黒川はたいへんな賑わいで、川の両岸の道がそれぞれ一方通行になってしまった。

もともと車はそうだったのだが、この時期歩行者までが係員に

「は~い、こちら方向にお進みくださ~い」

と大声で規制されるのである。

だから、すぐそこのスーパーに行くのも大回りしなくてはいけない。

やっとたどりついてビールを買い足して、用も足そうとトイレに行くとこれまた大行列で地団太を踏むはめになる。

ようやくトイレをすまし、気を取り直しビールを飲みながらゆっくり橋の欄干から川に落ち込んでいる桜を眺めようとすると、今度は

「は~い、立ち止まらないでくださ~い」

と係員に叱られるのだ。

なんだか制服を着た人にそばで大声を出されると卑屈になってしまい、僕は係員の目を盗んでこそこそと怪しく桜を眺める。

 

あ~、あれからもうどのくらい経つのだろう。

家から折り畳みのイスを持ち出して、お気に入りの場所で何時間でも好きなだけ目黒川の桜を堪能していたころがなつかしい~。