糸のような雨を、少しだけファスナーを下げたテントの入り口からぼんやり見ていた。
平日で雨のキャンプ場には人っ子一人いない。
ひんやりとする風が、目の前の清流の上を横切ってから、鼻だけ外に飛び出ている僕の顔を撫ぜる。
あまりの気持ちよさに、身体が固まる。いや、固まったと勘違いする程弛緩してるのだろう。
時々、思い出したようにきょろきょろと視線だけを移動させてみるが、動いているのは、微かに匂う、雨の筋と、テントの端やキャンプ用のテーブルから規則正しく滑り落ちる水滴だけだ。
しばらくすると、糸の隙間を縫うように一羽のトンビが川の向こう岸に現れたが、すぐに森の木々に紛れて見えなくなった。
僕は外の湿った空気を思いっきり鼻から吸い込むと、ゆっくりとテントのファスナーを引き上げた。
その瞬間に、際限なく広がる大自然の空間から、たった数㎡の立ち上がることさえ出来ぬ閉ざされた空間へ、僕の意識は折りたたまれる。
何冊か持って来ている本の中から、何を読もうかとバッグを探ると、サーっという雨の音に混じって、時折ぼつっ、ぼつっ、と真上を覆っている大きなくるみの木の枝からテントの屋根にしずくが当たる。
本を探す手を止め、その低いくぐもった音を聞いていると、僕は一層落ち着いてしまい、なんだか、もう何年もこの場所でこうしているような気がしてしまうのだ。

2014/5/22

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