もし月に海があったなら、今宵のように空気が澄んだ夜には、漆黒の空に、青白く輝くサファイヤのような生々しい月が僕を見下ろすのだろうか。

最近見つけたとびきり安い立飲み屋で、つい今しがたの閉店までしこたま飲み、立ちっぱなしだった足を休めようと帰りの歩道のベンチに腰を下ろしていた時、ふとそんな空想をした。

月は自ら光を放っているのではなく、太陽光が反射しているというのは、もちろん常識としては知ってるけど、目の前のまばゆいばかりの月をしばらく見ていたら、太陽の熱線をその表面に受け、灼熱の砂漠と化した月面が見えた気がして、つい、月が地球のような水の星だったら、などという夢想をしてしまったのである。
アポロ11号が月へ行き、あらゆる童話や物語の舞台に「人」が初めて降り立ったとき、ウサギは出迎えてはくれず、月の裏側の写真を撮った時も、UFOの基地は写らなかったけど、砂時計のような正確な月の満ち欠けが、実は太陽からのサーチライトの映り具合だったという神の創造の神秘は決して色あせない。

 

僕はバッグに忍ばせていた糖質0ビールを思い出したように取り出し、宇宙という暗転ステージで、太陽のピンスポットを浴びている「スター」ではなく「ムーン」を肴に、立ち飲み屋よりも時間をかけて黄金の水を喉に流し込んでいく。

地上の夜風が気持ちよく頬を撫でる。

もう一度空を見上げると、酔いのせいか、乾いた白い月がよりいっそう明るく、表面のクレーターが見えるほど近くに見えた。

僕はビールを飲み干すと「よいしょ」と立ち上がり、「やっばり、月は青じゃなく、今のままがいいな」と酒の十分廻った頭で独り言を呟きながら、月明かりが照らす満開の紅白のつつじ小路を千鳥足で帰路につく。

2015/4/30